郵便局だった建物の二階にある、珈琲屋さん
かつて、ここには郵便局があった。
人が行き交い、手紙や荷物が行き来していた場所。
その建物の二階に、静かな珈琲屋がある。
|六杏というお店
「カフェですか?」
そう聞くと、少しだけ間を置いて、こう返ってきた。
「いや、珈琲屋さんです。コーヒーしか置いてないんです」
店の名前は"珈琲 六杏"。
数字の「六」が持つ意味や、左右対称のかたち。
コーヒー豆の細胞が六角形(ハニカム構造)であること。
そして「杏」という漢字の持つイメージ。
いくつかの要素が重なって、この名前になった。
|はじまりはいつも縁
この店は、「縁」から始まっている。
もともとは黒部で店を構えていた。
その前は、イベントなどで出店する無店舗のスタイル。
場所を決めてきたというより、その時々の流れの中で、自然と決まっていった。
「黒部もここも、全部"縁"ですね」
この建物もそうだった。
物件を扱っていた人との出会いがあり、その流れでこの場所に決まった。
「この場所が気に入ったのもあるんだけど、人のほうが大きかったかもしれないです」
場所を選ぶというより、縁にまかせて受け入れていく。
|こだわらないというこだわり
「こだわりは、ないんですよ」
オーナーの大村さんは、そう言い切る。
ただ、それは無関心という意味ではない。
むしろ逆で、こだわりすぎていたからこそ、そこから少し離れた位置にいる。
コーヒーの淹れ方も、器具も、特定のスタイルに縛られない。
再現性も、比較も、あまり意識しない。
「他の店と比べることもないですし、あまり興味もないんです」
ただ、自分が飲んで美味しいと思うものを出す。
それだけでいい。
|空間について
店内は、必要なものだけで構成されている。
カウンター、テーブル、椅子、そして大きな窓。
空間に余白がある。
その余白の中に、コーヒーを飲む時間が置かれているように感じる。
カウンターの裏に多数のレコードが並んでいるが、
流れている音楽はiTunesのサブスクだったりもする。
「レコードじゃないですよって、言うタイミングが難しくて」
そう言って、少し笑う。
決めすぎない。固めすぎない。
そんな柔らかさが、この空間にもあるような気がする。
居心地の良さを感じる、余白のある空間
|変わっていくこと
「経年変化が好きなんです」
真鍮のように、使い込んでいくなかで表情が変わっていくもの。
この建物も、同じだ。
もともとは郵便局として使われていた場所。
役割が変わり、今は別の時間が流れている。
それでも、建物自体の使い込んだ味は残っている。
この場所を選んだ理由のひとつは、その"変化がもたらす意味"にあるのかもしれない。
|珈琲屋として
コーヒーは、あくまでもコーヒーとしてここにある。
深く語ることもできるし、語らずに飲むこともできる。
カップは、大倉陶園のもの。
かつて南青山にあった「大坊珈琲店」で使われていたものと同じもの。
強いコーヒーを受け止める器に魅了された。
そこには、少しだけ"こだわり"がある。
こだわりのひとつ、大倉陶園のカップ&ソーサー
|これから・・・
この先どうするかは、まだ決めていない。
コーヒーを続けるかどうかも、わからない。
「実はメインは絵描きなんです」
コーヒーは、その横にあるもの。
ただ、今はここにある。
編集後記
かつて人の流れを支えていた場所に、今は静かな時間が流れている。
大きな窓から街を眺めながら、大村さんが淹れたコーヒーを飲む。
それだけのことが、この場所では少し特別に感じられる。
-- information --
■珈琲 六杏
住所 富山県富山市豊川町5-7 四十物町BLDG 2F-E
OPEN 12:00〜(不定休)
